「私の使命は、島に人々が永久に住み続けることです」
2010(平成22)年5月8日、鹿児島県鹿児島郡三島村の黒島に向かう村営定期船「フェリーみしま」(1,196㌧)の船内で、日高壮士村長はこう切り出した。
薩摩半島の南西海上約50キロにある黒島で毎年5月、三島村特攻平和祈念祭が開かれる。地元の大里(おおざと)区を中心に実行委員会をつくり、大里区長が委員長を務める。
この年の祈念祭に島外の参加者は約30人。鹿児島南埠頭から竹島、硫黄島に寄港し、5時間20分の船旅で黒島大里港に着く。
村長のあいさつは特攻慰霊を限界集落の危機感と重ねていた。私は「日本の地方はどこも限界集落の危機にあるのだなあ」と枕詞のように受け取っていた。その時は……。
薩摩半島の南西海上約50キロにある黒島で毎年5月、三島村特攻平和祈念祭が開かれる。地元の大里(おおざと)区を中心に実行委員会をつくり、大里区長が委員長を務める。
この年の祈念祭に島外の参加者は約30人。鹿児島南埠頭から竹島、硫黄島に寄港し、5時間20分の船旅で黒島大里港に着く。
村長のあいさつは特攻慰霊を限界集落の危機感と重ねていた。私は「日本の地方はどこも限界集落の危機にあるのだなあ」と枕詞のように受け取っていた。その時は……。
黒島は森林が多く、島全体が黒ずんで見えることからこの名前がついた。海岸には断崖が続き、滝が多く見られる。周囲15・2キロ、面積15・3平方キロメートル。広島県呉市の下蒲刈島とほぼ同じ大きさの島だ。
集落は大里と片泊の2地区がある。
集落は大里と片泊の2地区がある。
この島に戦艦大和を目撃した人がいると私は聞き、初めて黒島を訪れた。
私は朝日新聞記者として地方転勤を重ね、戦後50年という節目の年、1995(平成7)年を広島県呉市で迎えた。戦後50年と呉市を結ぶ企画は呉海軍工廠で建造された戦艦大和が一番の候補だ。
以来、戦艦大和の取材を続け、転勤先の朝日新聞地方版に発表してきた。①
私は朝日新聞記者として地方転勤を重ね、戦後50年という節目の年、1995(平成7)年を広島県呉市で迎えた。戦後50年と呉市を結ぶ企画は呉海軍工廠で建造された戦艦大和が一番の候補だ。
以来、戦艦大和の取材を続け、転勤先の朝日新聞地方版に発表してきた。①
戦艦大和を旗艦とする第二艦隊(10隻)は1945(昭和20)年4月7日早朝、沖縄海上特攻作戦で進撃中、黒島の北方沖合を通過した。黒島は特攻に向かう戦艦大和を見送った最後の有人島だ。その時の戦艦大和を見た、という人がいるというのだ。そして、三島村特攻平和祈念祭に巡り会った。
太平洋戦争末期、1945年4月から6月にかけて日本の大本営陸海軍部は沖縄に押し寄せる米軍艦船に対し、航空機の体当たり攻撃を主とする菊水作戦を展開した。特攻だ。九州各地から飛び立った陸海軍の特攻機1914機の大半はまず黒島を通過点とし、そこから南下して沖縄に向かった。
……はからずも特別攻撃隊の飛行ルートとなりました本村にとりまして、未来の日本を背負って立つ子供達にその意義、歴史を途絶えることなく伝え続けることは重大な責務であると存じます……
と三島村は黒島で特攻平和祈念祭を開く所以を趣旨文で説明する。
……はからずも特別攻撃隊の飛行ルートとなりました本村にとりまして、未来の日本を背負って立つ子供達にその意義、歴史を途絶えることなく伝え続けることは重大な責務であると存じます……
と三島村は黒島で特攻平和祈念祭を開く所以を趣旨文で説明する。
① 広島県では「にんげん大和」(1994年9月~96年1月、3部構成19回)、愛媛県では「大和ニ消ユ」(2001年8月、5回)、長野県では「それぞれの見返り峠―大和と沈んだ水兵たち」(2006年8月~07年6月、3部構成18回)
凡例
本文の記述は、当時の雰囲気を知るのと現在の読みやすさを両立するため、次の様に原則を決めました。
1 底本としたのは、「近代日本総合年表」岩波書店1968年刊▽元海軍技術大佐松本喜太郎著「戦艦大和その生涯の技術報告」1952年11月再建社刊▽「連合艦隊海空戦戦闘詳報」1996年2月アテネ書房刊▽「戦史叢書」防衛省刊▽「帝国議会海軍関係議事速記録」全10巻原書房刊
2 軍人の階級はその時点のものを表します。
3 年の表記は西暦を優先し、元号は()内に表記します。
4 船の速度はノットを優先し、キロ換算を()内に表記します。
5 資料の文章は、当時の原文を主とし、途中から読みやすさを優先して常用漢字と現代かなづかいで表しました。
6 写真の撮影者は、断りがなければ筆者の渡辺圭司です。
「波頭」内の文章、写真、図表、地図を筆者渡辺圭司の許可なく使用することを禁止します。
問い合わせ、ご指摘、ご意見はCONTACTよりお願いします。
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