千田武志氏の大著「呉海軍工廠の形成」を読んでいて、2019(平成31)年4月9日夜、青森県沖の太平洋上で墜落した航空自衛隊F35 戦闘機のパイロットに思いが及んだ。
レーダーに反映されにくいというステルス性能は米軍事技術の最高機密だという。F35はステルス戦闘機と呼ばれる。
日本は次期主力戦闘機としてF35を100機以上、米から購入するが、機密部分はブラックボックス化されている。墜落したパイロットはブラックボックスの上に乗って操縦していた訳だ。パイロットは何が原因で機体不調になったか、を知る手がかりは得ることはできなかったのではないか。再発を防ぐにも日本側としてはブラックボックスに手を付けることができなければ原因究明は不徹底となる。
戦後の軍事技術の移転に米軍のブラックボックスが常に存在した。
自分の体験で思い出すことがある。1998(平成10)年9月3日、京都府・舞鶴港の海上自衛隊北吸岸壁で第3護衛隊群のイージス艦みょうこう(基準排水量7,250トン)から3人の白人男性が下艦してきた。半ズボン姿にTシャツというラフな服装で、明らかに軍人ではない。一人の太ももには黒い文字で「AEGIS」と殴り書きしていた。
イージスシステムとは飛来する複数のミサイルを同時に迎撃できるレーダーシステムで、米の最高軍事技術だ。日本はイージスシステムを導入したが、ブラックボックス化され、運用できるだけだった。しかも、入手したデータはイージスシステムを通じて米軍側に筒抜けだった。それが前提条件の技術移転だった。
当時、北朝鮮はミサイル発射実験をし、「みょうこう」が警戒出動していた。私は毎日、北吸岸壁に行き、海自艦艇の動きを注目していた。
「みょうこう」から下艦した白人男性たちは、海自舞鶴総監部の説明によると、「イージスシステムの定期点検のため米人技術者が乗り組んでいた」だった。たまたま、北朝鮮のミサイル発射実験に遭遇した、というが、誰が信ずるものか、だ。米側は早くから北朝鮮の動きを把握し、 事前にイージスシステムの技術者を「みょうこう」に乗せていた、と見るのが自然だろう。
このミサイル発射実験は、北朝鮮は人工衛星の発射と言い、米はその失敗と見ていた。が、日本はミサイル説を崩さず、主張し続け、結果、その通りとなった。
なぜ日本は米と異なるミサイル説を主張できたのか。
その後しばらくして、艦上パーティーで3護群の幹部に聞いた。
「米側が一番驚いたことは、北朝鮮のミサイルではなく、日本がイージスシステムを使いこなしたことではないですか」
「そうだと思いますよ」
その幹部は水割りのグラスを手にパーティー向けのにこやかな表情だったのが、一瞬、目つきは深くなり、ニヤリとして口元を固め、うなずいた。
その後も取材を続けた。若い電測関係の曹クラスの隊員から聞いた話だ。
…米兵器を使いこなすために兵器会社のガイドブックがあり、米本土で訓練を受ける。しかし、イージスシステムに関しては教科書なし、訓練なし。ただ、言われたことを操作するだけだ。口惜しい。米人技術者が定期点検に来た時、じーと手元を見る。質問をする。他基地のイージス艦の電測関係者とも情報交換する。そうやって一つずつ理解していく。…
イージス護衛艦みょうこうの北朝鮮ミサイルの観測やイージスシステムを巡る海自隊員の対応は1998(平成10)年11月15日付京都府内版で紹介した。海自舞鶴総監部のある幹部は「渡辺さん、若い隊員は純粋培養で育っているんですよ。余計なことをしゃべらせないようにお願いしますよ」とやんわりくぎをさされた。
しかし、米の軍事技術に「追いつき、追いつく」と奮闘する海自隊員を伝える記事に抗議することはなかった。
レーダーに反映されにくいというステルス性能は米軍事技術の最高機密だという。F35はステルス戦闘機と呼ばれる。
日本は次期主力戦闘機としてF35を100機以上、米から購入するが、機密部分はブラックボックス化されている。墜落したパイロットはブラックボックスの上に乗って操縦していた訳だ。パイロットは何が原因で機体不調になったか、を知る手がかりは得ることはできなかったのではないか。再発を防ぐにも日本側としてはブラックボックスに手を付けることができなければ原因究明は不徹底となる。
戦後の軍事技術の移転に米軍のブラックボックスが常に存在した。
自分の体験で思い出すことがある。1998(平成10)年9月3日、京都府・舞鶴港の海上自衛隊北吸岸壁で第3護衛隊群のイージス艦みょうこう(基準排水量7,250トン)から3人の白人男性が下艦してきた。半ズボン姿にTシャツというラフな服装で、明らかに軍人ではない。一人の太ももには黒い文字で「AEGIS」と殴り書きしていた。
イージスシステムとは飛来する複数のミサイルを同時に迎撃できるレーダーシステムで、米の最高軍事技術だ。日本はイージスシステムを導入したが、ブラックボックス化され、運用できるだけだった。しかも、入手したデータはイージスシステムを通じて米軍側に筒抜けだった。それが前提条件の技術移転だった。
当時、北朝鮮はミサイル発射実験をし、「みょうこう」が警戒出動していた。私は毎日、北吸岸壁に行き、海自艦艇の動きを注目していた。
「みょうこう」から下艦した白人男性たちは、海自舞鶴総監部の説明によると、「イージスシステムの定期点検のため米人技術者が乗り組んでいた」だった。たまたま、北朝鮮のミサイル発射実験に遭遇した、というが、誰が信ずるものか、だ。米側は早くから北朝鮮の動きを把握し、 事前にイージスシステムの技術者を「みょうこう」に乗せていた、と見るのが自然だろう。
このミサイル発射実験は、北朝鮮は人工衛星の発射と言い、米はその失敗と見ていた。が、日本はミサイル説を崩さず、主張し続け、結果、その通りとなった。
なぜ日本は米と異なるミサイル説を主張できたのか。
その後しばらくして、艦上パーティーで3護群の幹部に聞いた。
「米側が一番驚いたことは、北朝鮮のミサイルではなく、日本がイージスシステムを使いこなしたことではないですか」
「そうだと思いますよ」
その幹部は水割りのグラスを手にパーティー向けのにこやかな表情だったのが、一瞬、目つきは深くなり、ニヤリとして口元を固め、うなずいた。
その後も取材を続けた。若い電測関係の曹クラスの隊員から聞いた話だ。
…米兵器を使いこなすために兵器会社のガイドブックがあり、米本土で訓練を受ける。しかし、イージスシステムに関しては教科書なし、訓練なし。ただ、言われたことを操作するだけだ。口惜しい。米人技術者が定期点検に来た時、じーと手元を見る。質問をする。他基地のイージス艦の電測関係者とも情報交換する。そうやって一つずつ理解していく。…
イージス護衛艦みょうこうの北朝鮮ミサイルの観測やイージスシステムを巡る海自隊員の対応は1998(平成10)年11月15日付京都府内版で紹介した。海自舞鶴総監部のある幹部は「渡辺さん、若い隊員は純粋培養で育っているんですよ。余計なことをしゃべらせないようにお願いしますよ」とやんわりくぎをさされた。
しかし、米の軍事技術に「追いつき、追いつく」と奮闘する海自隊員を伝える記事に抗議することはなかった。
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